つぶやき
サイディング
壁を仕上げる材料をサイディングという。サイド(横)ingだ。
サイディングはパネル状の乾式材料を指すことが慣例で、比較的安価なものも多く便利な材料だ。ところがそのほとんどは○○風の模様が入っていてやっかいこの上ない。○○風は所詮ニセモノである。流行や一時の好みに左右されやすく、時間がたっても風合いが備わらない。なるべく素材に率直なまま使いたい。それが可能な安価な材料は金属かセメント系に限られてくる。
セメント系は高く金属がよく使われるが、最近は左官や吹きつけに再注目している。クラック防止や漏水対策が進んできたからだ。
宵越しの銭は持たない
江戸時代の職人気質として良く聞く言葉だ。大工は朝飯前から現場に出向く。旦那(依頼者)は頃合を見て朝夕まかないを振舞う。仕事を終えると家路につく。銭は必要なかったのだ。今でも工事中のお茶出しとしてこの風習が残っているのかもしれない。だとしたら、お茶はどうしたら良いですか、と尋ねられても器量のお話しだからこまってしまう。
施主
依頼者(建築主)のことを一般的に施主(せしゅ)という。この言葉を嫌い、クライアントと呼ぶ設計者は多い。
工務店など工事を一手に請け負うシステムがなかった頃、依頼者は各職方に直接賃金や資材費を逐次支払っていた時期がある。今でいう「分離発注」に近い形だろう。そこでは依頼者の明確な判断と決断が常に必要になる。だから施主なのだ。我々はあらゆる選択肢の中から最良と思うモノを提示する。要望に一致しなければ別案を提示できる。その中から選び決断する責任を負っているのは施主なのだ。この意味を大切にしたいので、とくに言い換えないことにしている。
ローコスト
限られた経済原理の中で、最大の空間を手に入れたいと願うことは当然だ。単純な形態・構造、合理的な材料・工法を選択することはローコストの基本だが、あくまで基本的建築性能を確保することが前提となる。つまりローコストとは「適正金額」とも読み替えられる。
どこにお金をかけ、どこにかけないか、プライオリティー(優先順位)を明確にすることがローコストのコツだ。
間仕切り、建具は少ない方が安くなる。キッチン・バス・トイレなども選び方によって大きく金額が変化する。
流行に左右されず、自分の個性と生活の仕方を見定めることが大切だろう。当然それは変化することもあり、誰にも予測できない事だが、考えを講じることが出発点だ。
収納
最近の住宅は個室ごとにクローゼットをつけることが売れる条件の一つらしい。リサイクルショップでもタンスの引き取りはほとんどしてくれない。
押入の使いにくさは多くの人が感じていると思うが、タンスのシステムは見直しても良いと思う。モジュールが一定で、移動して使う事もできる。そしてその素材やつくりによっては世代をこえて継承していくこともできるのだ。
間仕切りや建具とクローゼットをつくり、さらに煩雑な収納家具にお金をかけるなら、いっそうのこと、新しいデザインとモジュールであつらえる発想もあり得るだろう。
欧米のアンティーク家具に魅力を感じる時の理由を考えてみたい。
個室指向
何畳の部屋にクローゼット、何LDKがいいな、といった住宅構成の考え方はとても分かりやすい。ところが家族の構成と成長は必ず変化することを忘れがちだ。
四人家族でみんなに個室が必要なスパンはおよそ15年程度かもしれない。その前後はむしろコンパクトな生活空間の方が過ごしやすい人もいるだろう。必要な住宅空間変化と長期高耐久を求める投資バランスの見直しが必要と感じる。
個室指向から脱却し、将来のビジョンを見据えた考えをしたい。間仕切りの必要性、増築や改修が容易な構造、などを再考しよう。
下駄箱
昔ながらの玄関は1坪くらいの大きさは普通だったと思う。
最近は3LDKマンションでさえ1ルーム級の畳半分程度の場合が多い。
空間の合理性を考えればどうしても圧縮されてしまう部分だが上手に使いたい。
玄関タタキは靴が反乱する。女性の多い家族ならなおさらだ。
この靴を整理し、タタキがいつでもきれいに見えているだけでとても広く見える。
下駄箱の下部に30cm程度の空間をつくり普段使う靴はそこへ置くようにする。
その空間に照明を仕込む。下からの間接照明は思いの外ステキ。
上がり框
上がり框は本当に必要だろうか。
本来は木造の床下通風と靴を脱ぐ習慣から必然とした機能だった。
家主と来訪者との関係を明快にする一つの線引きでもある。
また框の高さは家の格を示す仕掛けでもあった。
現代では靴を脱ぐ場所の区切り、履くときの腰掛け、程度の認識だろうか。
框にこだわらなければさらに空間を広く感じさせられる。
上がり框をなくし、ドライとウェットの仕上げ材料で両者の区切りを設ける。
ウエットゾーンは思い切って最初の居室付近まであっても良い。
靴を脱ぐ場所はウエットゾーンの任意の場所で行えばよい。
軽くコンパクトなスツールが一つあれば便利。
現代では靴に泥を付けてくることはほとんどないのだ。
全熱交換器
空調と換気は技術者から見れば全く異なる発想が元となっている。
空調は内部の空気を適温に保ってそれをひたすら回転させようとする。
換気は内部の汚れた空気をいち早く外部へ排気し、外部の新鮮な空気を取り入れようとする。
この両者を両立させたのが全熱交換器である。
この機器を効果的に使用するには高断熱、高気密の造りが必要だ。
ところがこの高断熱、高気密は施工精度と工事監理がとてもむずかしい。
しかも完成後では不具合を確認しにくいのだ。
すべてを設備に頼ることは賢明ではない。
あくまで従来のパッシブ空調換気を機能できる状態で全熱交換を採用すべきと考えている。
シロアリ
最近ではシロアリ被害に対する予防的認識はとても低いようだ。
ところが近年の駆除薬品は人体への影響を考慮して5年程度でその効果はなくなる。
一方、シロアリは何千年も前から同じような生体を保ち現代も活動を続けている。
シロアリ予防は家のメンテナンス上必ず必要な項目だ。
関西以南では深刻な被害をもたらすイエシロアリが多いのでこの意識は高い。
関東以北では見かけ上被害の少ないヤマトシロアリが中心のためこのような意識は意外と思われる。
実際、水回りのリフォームを行うとシロアリ被害の形跡を確認できることが多い。
蛍光灯
天井一発蛍光灯は日本の特異な特徴だ。
この風景に不自然さを感じている人はほとんどいない。
しかも何の強制的規範がないにも関わらずほとんどすべてが同じようにできあがるのは奇妙としか言いようがない。
かつて蛍光灯はとても高価だった。
それを普及させるために、低消費電力、高輝度、高寿命を武器に社会戦略が行われたようだ。
これは否定すべき事ではない。現代のハイブリット車にかける戦略と同じ発想だろう。
しかし私たちはもっと多くの選択肢をあらかじめ持っていることに気づかなければならない。
そうしなければリゾートへ行ったときのあのホテル、映画で見たあの部屋、あのドラマのような雰囲気は再現できない。
様式感
様式とはなにか。知っている人にとっては魅力的な話題となるだろう。
一般的には、何々風や何みたいな感じなど、記憶にある風景、気に入った雰囲気などを任意に合成したものがその人の様式感として表現される。
あたかもアミューズメントパークの貧弱なアトラクションのようだ。と、揶揄されないとも限らない。
実はこれはとてもむずかしい話題なのだ。
人の感性を知識の裏付けで他人に語られるほど不愉快な事はない。
南国のチェスト、猫足付きの椅子、アラベスクのカーテンなど、インテリアとして一体感を出すのはとてもむずかしい。
しかし一つ一つのエピソード、思い入れ、選んだ理由、このような積み重ねの上にできあがった場合は、あらゆる理屈をはねのける、その人なりの雰囲気をかもし出すものだ。
興味と実践、その積み重ねは自分様式を創り上げる。