長野県旅館増改築及新築 1997 P-2/2

■フロントホール

改築前は風呂場などだった場所を一つのスペースにまとめ、暖炉のあるフロントホールに仕立てた。
天井の梁は、やむなく解体した敷地内の蔵から流用し、旅館の記憶を継承している。
フロント両側の存在感ある太い柱は、周辺で解体が行われた民家の廃材を、オーナーの努力で確保し再利用したものだ。
このホールは既存棟の伝統的な和の空間と新築棟の空間の歴史的時間差をなめらかに連ねる役目を果たしている。

■既存棟食堂

当初、既存棟を取り壊して新築する要望もあったが、長い歴史と現在では手に入りにくい空間を再生する提案をおこなった。
囲炉裏端は、奥の和室とつながる大広間だったが、食事の後くつろぐ場所、適宜団らんする場所として設置した。食堂へ直接つながる動線を柔らかにし、食への誘いを楽しみなものに演出している。
また、奥の和室を残すことで、家族卓として、テレビ鑑賞や宴会の喧噪を区画することにも役立っている。

■新築客室棟

時代と共に黒くすすけた風合いを持つ既存棟に対し、白木をそのまま使用することで、時間の違いを率直に現した。
湾曲した形状を持つこの廊下は白馬連山の壮大なパノラマを見渡すことができ、形状から生まれた余剰スペースは展望ラウンジとして使われている。このように客室のみならず、パブリックスペースのあちこちに、座ってくつろげる仕掛けが施されている。